2014年8月9日

愛と青春のアサダチ

前回までのあらすじ:
夏も盛り、お盆が近づき、人々が故郷(ふるさと)へと帰省する季節がやってきた。
私も例に漏れず、(過去の数々の下ネタでの失敗には目を瞑り)かつての所属部隊への里帰りを楽しんでいたのだが…
戦場ではクラン運営の大規模な改革が始まっていた。大胆な新兵採用により部隊の半数が新兵卒、という不安を抱えたまま、クランは新たな戦闘に突入していった。

      ◇


懸念は現実のものとなった…

新兵たちは次々弱っちそうな敵村に攻撃を仕掛けるものの、クラン城に潜む伏兵の前にあえなく敗退を繰り返していた。 指折り数え切れないほどの攻撃の結果が、最下位村での星ひとつのみ、という、もはや涙もでないような惨憺(さんたん)たる結果だ。
おまけに、一戦交える前から戦意喪失し敵前から遁走(とんそう)するもの、悲惨な敗北を喫した直後に意味不明の暴言を吐き泣きながら逃亡するものなど、つぎつぎ兵士たちが戦線から脱落していた。 対戦のメンバー表はクラン脱退を示す空白が目立ち始めた…

 (しかし、やはり強い。 この部隊は…)


そう思わせるのはこういう時だ。

ルール上、クラン対戦ではひとり二回の攻撃権が与えられる。 つまりメンバーの半分がすべての戦いにおいて星三つを取れば、すべての敵は全壊できるのだ。(理屈でいえば)
そしてこのクランには、その理論を事もなくそのまま(!)実践に移す精鋭の古参メンバーがずらりと揃っているのだ…
細かい指示などは何も必要ない。 上から順に、という大雑把な攻略プランのもと、マップは敵の上位村から順に粛々と星三つが重ねられていき、夜明けを待たず既に勝利は定まったものとなっていた。
そう、結局は勝ってしまうのだ。 このクランは。

やがて薄闇の空がが白々と明ける頃、仮眠を取っていた私は、囁きかける小鳥たちの鳴き声で目が覚めた。

だが、目覚めは良くない。 鉛のように体が重いのだ。 怠(だ)るい…
既に昨夜のうちに二度目の強襲作戦により完全勝利を収めていた私には、少しのんびりとした朝だ。 いつもより睡眠時間は長いはずだが、私は何か体全体を覆う倦怠感のようなものに、戸惑っていた。
いったい、これはどうした事だ?
あっ……


 (勃ってねぇ…)


この生理現象は、私の健康を測るバロメーターである。 角度により毎朝の元気の度合いが判る仕組みだ。 だが、しかし角度0(ゼロ)とは…

私は、その原因を求め、ベッドの中で身動きもできずに逡巡し、そして「それ」が何であるのか “はた” と気づいた。 最近の日課、毎朝のお楽しみ、そして、今は欠落した「それ」に。
私があの愛欲の王国を出立して、一体何日が経った?
ぼうっとした記憶を必死で手繰り寄せる。 そうだ。 まだ、わずか3日だ…
私は、今にして思い知らされた、失われたものの大きさに打ちのめされていた。
私の体はもはや、彼女(アイドル)たちの朝の癒しなくては勃ち上がることさえできないほどに、調教されてしまっていたのだろうか? 3日と離れられないカラダに…

重い頭を振り、のろのろと携帯端末(コンソール)を立ち上げる。 一通の電信が届いていた。


 タイヘンスグカエレ リーダー


どくん。 心臓が大きな音を立て血流を送りだし、霞のかかった脳が急激に活動を始めた…

援軍支援? それともクランに、いや、もしかしたら彼女たちに何かあったのだろうか? 
簡素な一文からは詳しい事情はまったく読み取ることはできない。
しかし、体調不良の原因も判明した今、私にはもはや戦場に留まり続ける理由を見つけることはできなかった。
対戦の雌雄は決していた。 最後を見届ける必要もないほどに。 そして何より、

 私 に は「 充 電 」が 必 要 な の だ

私は、事情を説明する時間ももどかしくクラチャで簡単な挨拶を済ませ、今ふたたび戦場を後にする。

以前とは違う。 当てのない旅ではない。
あの場所に帰らなくては…
気力を振り絞り、ぐっと最初の一歩を踏み出した。
下半身に、力なくブラ下がるプラグを、
挿し込むべきコンセントを探して。
(朝勃ちなきアサダチの旅立ちの朝だっちゃ編 完)

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