2014年6月29日

さらば酒場よ、永遠(とわ)に

敵軍も黙ってはいなかった。
敵中堅部隊による勇猛果敢なジャイヒー・アタックを受け、星の数はついに 32-32 の同点に追いつかれたのだ。
さすがは過去8勝を挙げているだけのことはある。

そして戦況は同点のまま膠着状態に陥った… 互いに散発的な攻撃は行うものの星は稼げない。

いたずらに時間だけが過ぎていく中、敵のトップ3は相変わらず不気味な沈黙を守っていた…

その時!

闇夜を覆う暗雲を切り裂き、星が、動いた。
この数時間にわたる停滞に敢然と立ち上がる漢たち(たぶん)が現れたのだ。
あれば見間違いようもない、新人のなかでも抜群の成績を上げている撃墜王 “ノルマンディで見逃して” だ。(※)
“勇者こうへい” が猛然とそれに続く。 そして “たぬきつね” も。
連続星3つだ! ジェットストリーム・アタックだ! おまいら黒い三連星か?
やべぇ、観戦モードで見てるだけなのに血がたぎるぜ!

この反攻をきっかけに勢いに乗り、じりじりと差をを拡げる我が軍勢に対して、しかし敵はなお、まったく動きがない。


あと2時間…、1時間……

ヤツらは動くのか?

そして終戦。

あっけないほどに静かに、その時は訪れた。

勝利! 勝った、勝ったのだ、しかし… なぜ敵のトップ3は…?


釈然としない思いを胸に、敵味方双方の戦果を確認していた私はその時“はた”と敵軍の謎の沈黙の原因(わけ)に思い至った。


敵クランは「ドイツ」クラン、だと!?


ヤツらは昨夜、第二次世界大戦で煮え湯を飲まされたアメリカ合衆国を相手に、W杯グループリーグ突破をかけて激しい一戦を交えていたハズだ。 ビアガーデンに集い、次々と樽を空け、真っ赤な顔でどんちゃか怪気炎を上げていたに相違ない。 


 あ、あ、あ、あァ~ッ


ぐでぐでに乱れ酔っ払った大柄な金髪ゲルマン女が、よだれを垂らしながら “ぶっとい” ソーセージを頬張っている光景が一瞬、頭をよぎる…

ヤツらサカ豚どもは、クローゼの老いっぷりに嘆き、ミュラーの足技に酔い、クラクラどころではなかったのだ。

こ、これは…

朝起きれない… わかる、わかるぞッ、そのツラさは!(牛乳コップ一杯飲んどくと良いぞ、あと太田胃散も…)

奇しくも70年前の6月、連合軍はノルマンディ上陸作戦によりナチスドイツに敢然と反攻を開始したのだった。 今回 “ノルマンディで見逃して” がドイツに反撃の狼煙を上げたのは決して偶然などではなかった!

数奇なる歴史の巡り合わせに思いをはせつつ、気がつけば私は戦争の英雄たちに惜しみない拍手を送っていた。

私の頬を伝うものがあった…

ここに戻ることはもう、ないかも知れない。 しかし、私は決して忘れはしないだろう。

夜の帳の明ける前、西部戦線の攻防のすべてをこの胸に収め、私は大いなる満足感とともにひっそりと酒場を後にしたのだった。


(旅人の酒場編 完)


※ サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」のパロディ? ネタ元不明…




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